気体と圧力
分圧、全圧とは
蒸留操作で圧力といえば、ほとんどの場合気体側で制限された圧力をいいます。「ドルトンの分圧の法則」として、さらりと書き流しましたが受け入れられたでしょうか?
分圧の合計が全圧になる。というのですが、よりよくイメージしてみましょう。上記では、空気という分子があるがごとく記載しましたが、ご承知のとおり空気は主に窒素と酸素、容積比で窒素が約 割、酸素が約 割です。(モル数の比も同じ) そこで、空気で膨らんだ風船を考えてみます。風船の中では窒素分子、酸素分子が激しく分子運動しています。そして風船の内壁に激しく一様(パスカルの原理)に何回も衝突しています。風船内の圧力はその衝突力といえるでしょう。 モルは、 個の分子の集まりで、すべての気体において 、 で です。
すなわち、これは、壁に衝突の際個の分子が壁に与える力は窒素も酸素も等しいことを意味します。(当たる回数は異なるかもしれませんが、窒素も酸素も個当たり( )の力を壁に与えています。
窒素分子と酸素分子が壁に与える力の比率は風船内のそれぞれの分子の個数の比に等しく、全圧は窒素分子が与えた力と酸素分子が与えた力の和である。 これも「ドルトンの分圧の法則」の別表現といえるでしょう。「蒸留で使用する濃度の単位」の項であった(1)式の意味もなんとなくイメージできることでしょう。
【参考】気体分子運動論における気体の圧力は、 、理想気体では 、両式より、 (:ボルツマン定数) となり、壁に与える分子 個の運動エネルギーは これは、分子の種類によらず温度の関数となっている。当たる回数は異なりそうですね。
理想気体とは
通常の蒸留では、気体(気相)は理想気体として取り扱ってもほとんど結果に影響しません。が、「それは理想気体での話でしょう!」って指摘されたとき、慌てないために知っておくことに越したことはありません。程度でしょうか。
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理想気体とは、
- 分子の大きさはない。(したがって分子同士は衝突しない)
- 壁に衝突した際には、方向は変わるが速度は変わらない(弾性衝突する)
- 分子間の相互作用がない。
この仮定に基づく法則として蒸留分野では主に、「ボイル・シャルルの法則」と「ドルトンの分圧の法則」が関係し、その法則を使用しても大きな問題は生じません。
「ボイル・シャルルの法則」
: モル数: 気体定数(その数値および単位は圧力と体積の単位により異なる)
: 絶対温度()
です。
ボイルシャルルの法則は、蒸留では蒸留塔の塔径を決める際に気体の密度( )が必要となります。それ以外では使用しませんが、気相(蒸気)と液相(液体)を取り扱う操作ですので、気体の様子をイメージする際に参考となりますのでその性質を見ておきましょう。
(7)式の を求めておこう。すべての気体 モルは、 、 気圧で であることから、 この 値が使えるのは、圧力の単位は( )、容積の単位は( )であることに注意しよう。
次に、(7)式から気体の密度 を求めおこう。分子量を とすれば、
であるので、(7)より、 よって、
で風船をまで膨らませたら、風船内の圧力はであった。風船内の空気密度は?
(8)式からを用いて ただし、空気の分子量(モルの質量)は、としている。の水はですので、空気はおよそですね。
この風船をエベレストの山頂 ()に持ってゆけば、その空気密度は?
地上と比べると(倍)空気が薄くなっていることになります。 酸素ボンベがないととても登れない空気ですね。
蒸留での気体の取り扱い
ここまで気体に関して多くイメージしてきましたが、蒸留での気体の取り扱いで唯一重要な法則は、
「ドルトンの分圧の法則」
です。 この法則は、理想気体の性質から導かれた法則ですが、蒸留で使用する範囲においては十分信頼できる法則です。これをここまでのまとめとしておきましょう。