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単蒸留と物質収支(連続蒸発)
単蒸留と物質収支(連続蒸発)
先に示した気液平衡線図は、ベンゼンーキシレンの2成分系の気液平衡線図です。 この系での連続単蒸発を考えてみよう。 単蒸留とは蒸発のことですが、図-5のような装置も蒸留装置に含めてしまうことがあります。 蒸発であることを強調するようなときに単蒸留とよばれます。
蒸発装置の構成を図-5に示しました。 蒸発装置は通常「蒸発缶」「凝縮器」「留出液受器」と「送液ポンプ」とから構成されます。蒸発缶は加熱蒸気にて加熱され、蒸発缶内の液が蒸発し、蒸発した気体(ベーパー)は凝縮器で冷却され凝縮し留出液として取り出されます。
今、原料がで供給され、その濃度はベンゼン 、キシレンとします。この原料が連続的に供給され、連続的に蒸発し、蒸発残液は蒸発缶の液面が一定に保たれるように連続的に抜出されるとしましょう。 さて、どのような濃度の留出液が得られて、どのような蒸発残液となるでしょうか?
図-3、図-4では、 液は 蒸発気体は、 でした。原料液濃度と平衡な蒸気濃度が得られると考えるのはちょっと早計です。 蒸留、蒸発操作に限らず分離操作では、物質収支を念頭におく必要があります。蒸留、蒸発操作で、もっとも大切なのが「気液平衡」と「物質収支」です。
「物質収支」に関して考えてみます。
ある分離装置に入ってくる量がとします。 そして、に分離されるとします。装置への付着、損失がないとすると、
です。 そして2成分系として、その軽沸分濃度が、それぞれ、、、であるとき、軽沸分の物質収支は、
です。(19)式のに(18)式のを代入してとそしてそれぞれの濃度の関係を求めると、
同様に、
となります。 (20)式は、図-6のように数直線上の線分長さの比として表現されます。
また、この関係は、長さと力の関係を表した形に似ていること(量は大きさ、その大きさの作用する長さは )からテコの原理とよばれています。 物質収支を考える際、この図-6または、図-7をイメージすると理解しやすい。
(22)式を変形すると、 まさにテコの原理と同じようになっているのがわかります。
連続蒸発を行っているとき、図-5の蒸発缶内の液と蒸発缶から蒸発する気体(ベーパー)は気液平衡状態であると考えられます。 そして、蒸発缶内の液濃度と蒸発缶から排出される液濃度は同じと考えるのが妥当でしょう。 その関係を図-8に示します。
原料濃度は、ベンゼン、蒸発缶内の液濃度は、ベンゼンがより多く蒸発しますのでよりも小さい値となります。で、その液濃度をとしましょう。 気相(ベーパー)濃度は、蒸発缶内液と気液平衡状態にあるとして、グラフからと読み取ります。そして、物質収支は、図-6の線分長さの関係より求められます。 留出流量に相当する長さは、 です。また、原料流量に相当する長さは、 です。したがって、 そして、原料流量はですので、 、 となります。
図-8をもう少し掘り下げてみましょう。図-9です。
図-9は、物質収支(テコの原理)を気液平衡線図に描き加えた図です。蒸発缶での物質収支が一目でイメージできます。
また、このテコの原理は三角座標で表現する3成分系でも同様に成り立ちます。
単蒸発と物質収支(バッチ蒸発)
原料液のすべてが蒸発缶に仕込まれた後に、蒸発が開始される。そして、釜内の液が所定の量になるまで蒸発されれば加熱停止し、蒸発缶内の残液を取出します。このような蒸発操作をバッチ蒸発といいます。 そして、このような操作は、蒸発する製品の品種が多い場合や、1日に蒸発させる量が少ないときに用いられる蒸留操作です。
このような操作をしたときの、釜内液濃度と蒸発液濃度は、どのように変化するでしょうか。その様子を見てみましょう。
この蒸留法は微分蒸留ともよばれ蒸発缶内の液量の減少にともない、缶内の液濃度、蒸発する蒸気濃度、および温度が刻々と変化します。したがって、物質収支式も連続蒸留のように一位に定まった式とはなりません。
図-(11)にその変化の様子を示します。 缶内濃度(液相濃度)の変化にともない蒸発濃度(気相濃度)が気液平衡線に沿って変化してゆきます。
では、物質収支式はどうなるか。 この問題を解くのは、もう少し知識を貯め込んでからとしましょう。 ここでは、次のことに留意するに留めておきます。連続蒸発では、蒸発缶の残液がとしたとき、蒸発濃度は、でした。しかし、バッチ蒸発では、図-11に示されるように蒸発濃度はまで変化しますので、バッチ蒸発のほうがやや軽沸成分に富んだ液が得られます。