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蒸留の原理と蒸留装置
蒸留の原理と蒸留装置
純成分の蒸気圧と温度の関係、液相濃度と気相濃度の関係(気液平衡)を理解し、蒸気圧の大きい(沸点が低い)成分が気相でより濃度が高くなることを理解しました。 しかし、単蒸留(蒸発)のみでは、その分離の程度は不十分でした。 で、もっと濃度を上げるにはどうすればよいかを考えてみましょう。
1回の蒸発では、たとえば、ベンゼン-キシレン系でが程度でした。 この得られた液を再度蒸発させると、となり、この液を再度蒸発させると、となる。 この操作を繰り返すと限りなく純粋成分に近づきそうです。 その様子を図-12に示します。
蒸発、凝縮の繰り返し、とは具体的にどのようにするのかを図-13で示します。各フラスコにはヒータが取り付けられていて液は沸騰していてコンデンサーで凝縮し、次のフラスコに移される。蒸発しているとフラスコ内の液がなくなります。これを防ぐため、一番右のフラスコから順次液を戻します。この結果、図-12に示されたようにフラスコ内の液は右に行くにしたがって順次濃度が上がった状態となります。
図-13では、各フラスコにヒーターとコンデンサーが付いていますが、下図、図-14のように工夫してみましょう。
図-14は、ヒーターは、最下段のみでコンデンサーは最上段のみ。4のフラスコで発生した蒸気はそのまま3のフラスコに入り、3のフラスコの熱源となる。そして、順次最上段に送られて、最上段でのみコンデンサーで凝縮させる。このように熱移動と物質移動を同時に行われる操作が蒸留操作です。
この操作がもう少し工夫されて図-15のような装置となり、これが蒸留塔といわれている装置です。蒸留塔は、図-10 蒸発装置 の蒸発缶とコンデンサーの間に配置されることになります。
蒸留塔を使用すると、軽沸成分の濃度を限りなく純粋成分に近づけられることを理解しました。 しかし、図-13〜図15では濃くなった軽沸成分を抜出していません。濃縮された状態が形成されたに過ぎません。 塔頂で凝縮された濃縮液を取り出すには物質収支を検討に加えなければなりません。
蒸留塔と物質収支
図-16は図14の再掲です。しばらく、このフラスコ図で物質収支を考えます。フラスコ4のヒーターでの蒸気を発生させたとき、その他のフラスコから発生する蒸気はどうなるか? もちろん放熱は無視します。各フラスコは上部になるほど温度は下がります。その温度差も無視することにします。 そして、蒸留でもう一つ大きな仮定をします。各フラスコで発生する蒸気流量はすべて等しい(各段の蒸留潜熱は等しいとします)。つまり「等モル流れ」とします。
幾つかの物質のモル蒸発潜熱は、下記のとおりです。
- ベンゼン
- 30.78
- 7,353
- トルエン
- 33.49
- 8,000
- o-キシレン
- 36.84
- 8,800
- 水
- 40.77
- 9,740
- メタノール
- 35.25
- 8,420
- エタノール
- 39.35
- 9,400
- MEK
(メチルエチルケトン) - 31.98
- 7,639
ちょっと大胆ではありますが、およそ等しいといえば等しい気がしませんか。 このように仮定すると、物質収支がきわめて単純化されます。
図-16のでの状態で点線四角で囲まれた部分の物質収支をとります。液相濃度を、気相濃度をとします。点線四角で囲まれた部分から出てゆく総量は、入ってくる総量はです。成分(1)に関しては、出てゆく量は、入ってくる量はです。
書き直すと
他の区切りでも同じような式になるので、下式となる。
(27)式は、(全還流という)であればであるので、図-17のの線(対角線)であることがわかります。この線を操作線(物質収支線)とよびます。
図-18で各フラスコからでる蒸気流量および各フラスコから戻る液量は等しい(等モル流れ)として、抜出し流量をとして、二点鎖線で囲まれた部分で物質収支をとると、
そして、式(28)と同様な物質収支が各フラスコで成り立ちますので、書き直して
なる式が導出されます。 この式は、横軸を液濃度とし、縦軸を気相濃度としたとき、直線となり、その傾きがで、切片がとなることを示しています。 そして、この式は物質収支から導かれた式で、各段の物質収支を示しています。また、は還流比と定義されで、と置けば、、となり、式(29)の無次元化された式(30)を得ます。
かくして、図-15蒸留装置の設計が可能となりました。 その手順をx-y線図を用いて説明します。 図-19です。
理論段数と還流比
式(30)と気液平衡線図を組み合わせると、実は、次のように簡便な図解法で理論段数と還流比が求まります。
- 釜に仕込んだ液濃度をとし、塔頂から得たい液濃度をとします。
- から気液平衡線上まで垂線を引きます。
- (塔頂からの蒸気濃度=得たい塔頂液濃度ですので対角線上となります)から式(30)に相当する物質収支線(操作線とよばれます)を引きます。この線上に(、)が打点されることになります。
- から、が求まります。気液平衡からが求まります。
- と物質収支線(操作線)の交点からを得ます。
- 気液平衡からを得ます。
このように、気液平衡→物質収支→気液平衡→物質収支 を繰り返して釜に仕込んだ液濃度まで階段作図を進めるのです。 蒸留塔の塔内濃度分布は気液平衡のみで決まるのではなく、気液平衡と物質収支の組み合わせで決まることを理解してください。
(注意) 3.の物質収支線(操作線)によって必要とする理論段数と必要とする塔底蒸気流量(還流比)が決まります。その傾きを対角線に近づけると理論段数は少なくなります。が、必要とする塔底蒸気流量は増えます。この関係を次に示します。
最小理論段数と最小還流比
図-16以降、各段と塔頂との物質収支の話をしてきました。塔全体の収支は取っていませんでした。塔頂から抜き去った分は塔底の液が減少し、塔底の軽沸分濃度も減少します。しかし、そのことはしばらく棚に上げておきます。塔底の液は十分に多く塔頂からの抜出には影響されない状態での話としておきましょう。 図-20、21を見てください。
図-20では操作線の傾きは1です。全還流です。塔頂からの抜出量は0です。このとき理論段が最小となることがわかります。このように全還流状態での理論段数を「最小理論段数」といいます。
図-21では、Aの線とBの操作線が気液平衡線上で交差しています。このとき、図のように塔頂目標値から階段作図を行うと無限大の段数が必要です。そして、このとき、操作線の傾きは最小となります。このような還流比を「最小還流比」といいます。
では、どのような還流比と理論段数になる操作線を引けばいいのでしょうか?
還流比を多くすれば、理論段数は少なくて済みますが、塔径が太くなり塔底の炊き上げ量が増えます。還流比を小さくすれば理論段数は増え蒸留塔の塔高が高くなります。が、省エネとなります。この選択は、設計時の諸事情によります。一般的には、最小還流比の1.5倍前後といわれています。 しかし、重要なことを忘れてはいけません。「等モル流れ」の仮定です。実は、Bの操作線は直線ではないのです。「等モル流れ」の仮定 → 蒸発潜熱が等しい。各段の温度が等しい。混合熱がない。など、大胆な仮定のもとに操作線が直線となっています。つまり、物質収支とエンタルピー収支が考慮された操作線としなければなりません。この解法はポンチョン・サバリとよばれる図解法がありますが別の機会とします。